浅海から深海へ進む中国の水中考古調査

ソース:人民網日本語版作者: 2025-09-05 14:25

 夏休み期間中、海南省瓊海市中国(海南)南中国海博物館は見学者で賑わい、1日当たりの来館者は普段の約5割増に達した。なかでも、「深藍宝蔵——南中国海西北大陸斜面1・2号沈没船考古学成果特別展」が最も人気となっている。

 展示ホールでは、「明琺華貼金鏤空孔雀牡丹紋大罐」と名付けられた壺が静かに存在感を放っている。華やかなデザインで、その透かし彫りと金箔を張る技術には驚嘆させられる。実は、この壺は、昨年の時点では、10万点以上の他の陶磁器や木材と共に、水深約1500メートルの海底に眠っていた。

 中国(海南)南中国海博物館の辛礼学館長は、「深海調査船のカメラを通して、初めて南中国海西北大陸斜面1号、2号沈没船遺跡を見た時、全員が驚きに震えたほどだった。そこは、まるで時間が止まってしまった『宝石箱』のようで、保存状態は非常に良かった。この2022年から始まった考古学的発見は、中国の水中考古学が浅海から深海へ歩みを進めたことを示す歴史的なブレイクスルーと言える」とした。

 中国(海南)南中国海博物館の「深藍宝蔵——南中国海西北大陸斜面1・2号沈没船考古学成果特別展」の様子(写真提供・中国国家文化財局)。

 キーテクノロジーのブレイクスルーが実現し、さらに深い海へと進む考古学調査

 晴天に恵まれた2022年10月23日、500回目の潜水任務を遂行していた有人潜水調査船「深海勇士号」の乗組員が突然、「大量の陶製の貯蔵器発見!数えきれない!」と驚きの声を上げた。

 当時、「深海勇士号」は、三亜市から約150キロ離れた海南島南東の海域を調査していた。そこは、「南中国海西北大陸斜面」と呼ばれており、古代沈没船2艘が発見され、世界を驚かせた。中国が水深約1500メートルの深海で明の時代の沈没船遺跡を発見したのはそれが初めてのことだった。

 水深1500メートルとは、何を意味するのだろうか?そこは、常に暗闇に包まれた「深海の無人地域」で、水圧は潜水士が耐えることのできる限界をはるかに上回っている。辛館長は「2018年より前は、中国の水中考古学調査は、基本的に水深40メートルまでの浅海に限られていた。深海の考古学調査と浅海の考古学調査は異なり、テクノロジーの下支えがなければ、深海は考古学にとって調査対象範囲外だった」と説明する。

 極端な環境下では乗り越えなければならない試練も大きい。南中国海西北大陸斜面沈没船遺跡考古学調査プロジェクトのリーダー・宋建忠氏は、「この発見は非常に珍しい。このような深海考古学調査は、参考にできる前例がなかった。この挑戦が成功したのは、10年以上かけて開発したテクノロジーのおかげだ」とする。

 2009年、深海有人潜水調査船「深海勇士号」の建造プロジェクトが立ち上げられ、2017年10月に海上試験運転に成功し、中国科学院深海科学与工程研究所に引き渡された。中国が独自に研究開発した国産化率95%以上のこの有人潜水調査船は、8年かけて技術の難関を攻略し、チタン合金の耐圧殻、深海用浮力材、低ノイズプロペラなどのキーテクノロジーのブレイクスルーを次々に実現し、作業能力は水深4500メートルに達した。これにより、中国の考古学者は初めて、水深1千メートル以上の海底の世界を調査できるようになった。

 63回の潜水を通じて海底に数百年眠っていた文化財引き上げ

 2023年10月1日、中国南中国海西北大陸斜面沈没船第二段階考古学調査が行われ、平均風速約13ノット、水深約1500メートルまで潜水した。

 張凝灝氏は、その任務で潜水した科学者で、今回の沈没船遺跡考古学調査プロジェクトの副リーダーだ。

 深海潜水調査船支援母船 「探索2号」から海中に降ろされた「深海勇士号」は毎分35メートルの速さで、海底へと潜っていった。太陽の光が届かない深海は暗闇に包まれており、コックピット内の気温も少しずつ下がっていく。約40分後、潜水船が海底に到達すると同時に、潜水船のライトが付き、南中国海西北大陸斜面2号沈没船遺跡が目の前に広がった。遺跡の大きさは長さ約21メートル、幅最大8メートルで、黒くなった木材が南北に整然と並んでいた。

 1号沈没船には、江西省景徳鎮市から輸出された陶磁器が、2号沈没船には、海外から輸送されてきた木材が満載されていた。宋氏は、「1艘は輸出、もう1艘は輸入ということは、古代海上シルクロードにおいて、双方向の貿易が繁栄していたことを裏付けている。これにより南中国海の航路の歴史が繋がった」とした。

 潜水士の操作で、「深海勇士号」はゆっくりと文化財に近づいていく。潜水前に、考古学調査の専門家はどの文化財を引き上げるかを決めていた。張氏がその文化財を確認すると、潜水士がロボットアームを操作してそれを掴んでいく。

 潜水士が乗るコックピットの外には、ロボットアーム2本が備え付けられており、その先にはロボットハンドが取り付けられている。そのうち1つのハンド部分は柔らかい素材で覆われており、海底に数百年眠っていた文化財を細心の注意を払って掴む。その動きはまるでUFOキャッチャーのようで、高い技術力が求められる。船外に搭載されている高画質カメラはこの有人潜水調査船が作業する様子を撮影している。位置測定の高い精度、高解像度の映像データ、3Dスキャンデータ、物理探査海底測量データの収集と結合、レンダリングは、考古学者が沈没船遺跡の平面図を描き出す助けとなる。

 2023年から2024年にかけて、3段階にわけて考古学調査が実施され、海上作業日数は70日、潜水回数は63回に及んだ。海底に眠っている貴重な文化財928点(セット)は、こうして引き上げられた。それらは膨大な数の海底の遺物の一部分に過ぎず、さらに多くの文化財が近い将来引き上げられるのを静かに待っている。

編集:董丽娜

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